弁護士による交通事故ブログ (転載禁止)

手根管症候群(CTS)の裁判例の実情等

ア 手根管症候群(CTS)とは?

 手根管症候群(CTS、carpal tunnel syndrome)は絞扼神経障害に分類される疾患です。 正中神経が手根部で絞扼・圧迫を受けて症状が出現するものとされています。最も頻度の高い絞扼神経障害とされています。
 多くの医学書で手根管症候群に胸郭出口症候群などのほかの神経障害の合併した重複神経障害が多いとの指摘があります。
 一般に電気生理学検査により確定診断ができるとされています。即ち、絞扼を受けた神経が障害されてミエリン鞘がはがれると、 神経伝導速度が遅くなり、神経伝導速度検査でこれを検知できるとの理屈です。


イ どのような症状が生じるのですか?

 手指のしびれ、痛み、知覚障害、知覚異常、拇指球筋の萎縮などです。手指のしびれは小指を除いた4指であるとする医学書が多いです。但し、全指に症状が出現するとする医学書もあります。夜間や早朝に痛みが増強することが多いとする指摘が多くの医学書で述べられています。両側に症状が生じる症例も多いとされています。


ウ 交通事故で生じる手根管症候群の症状

 交通事故で手根管症候群が主たる争点の1つとなる裁判例は少ないです。私の実感では胸郭出口症候群の5分の1以下であると思います。
 但し、胸郭出口症候群に合併した手根管症候群は多いと思われますが、手根管症候群の検査を受けていないことが多いです。 即ち、全指に症状が出ていて第1~第4指までの症状は手根管症候群で第4、第5指の症状は胸郭出口症候群であると考えられる事案です。
 事故直後から手指に痛みを訴える事案もありますが、事故の1~2週間後(またはそれ以降)に痛みが増強してのちに手根管症候群とされる事案も少なくありません。 また、交通事故で発症した場合にも両側に症状が出現する事が多いです。


エ 自賠責保険の後遺障害等級認定

 判例集で確認できる事案や私の経験した事案では、手根管症候群と診断された事案で、 自賠責で12級を超える後遺障害が認定されることは少ないです。被害者の実態より低く等級認定されるのが自賠責の実態であるという印象です。


オ 訴訟での現状

 手根管症候群の場合、手指に限定された症状であるため、重い後遺障害の主張となることはまれです。裁判例では被害者側の立場は劣勢であるという印象です。加害者側は被害者の症状や診断を否定するべく医学意見書を出してくることが多く、それに対応するためには医学的知識が必要です。


カ 当事務所の成果

 当事務所では令和2年までに手根管症候群が主たる争点となった訴訟案件を1件受任して、勝訴したことがあります。 頚部のヘルニア等との重複神経障害が疑われる事案でしたが、手根管症候群の手術により手指の痛みが改善した事案でした。 訴訟で加害者側が5通ほどの医学意見書を出して、症状や診断の否定を強く主張しましたが、多数の医学書を引用してこれに反論し、勝訴となりました。
 地裁判決では遅延損害金を含めると8000万円を超える賠償額となりました(この判決は手根管症候群を認めた日本で最初の裁判例であると思います)。 確かに手根管症候群の発見が数年遅れて治療に長期間を要した事案でしたが、さすがにこれは高額すぎるかなあと私も感じました。 加害者側が医学意見書を多数提出して無理に争ったのが裁判官の心証を悪くしたと思われる事案でした。この事件は高裁で5000万円での和解となりました。
 このほかに胸郭出口症候群に合併した手根管症候群の事件を数件受任しましたが、手根管症候群は主たる争点とはなっていません。 手根管症候群は電気生理学診断で確定診断ができるとされており、その医学書を証拠として提出すれば、加害者側の主張を排斥できます。


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