- 首から上肢にかけての痛みが増悪、拡大 被害者がCRPSと診断された裁判例で最も多くみられるのは、上肢のCRPSの場合は事故直後の時期は首から上腕にかけての痛みであったのが、その後に症状が増悪・拡大し、上肢全体の痛みと運動障害(上肢の廃用)につながった事例です。 この事例では事故直後には被害者は痛みを訴えるも入院するほどではなく、救急搬送されずに警察への通報や実況見分の立会をしていることも少なくありません。その後に頸部の痛みを中心とした肩部や上腕部の痛みを訴えることが多く、事故直後の時期はいわゆるむち打ち損傷と見分けがつかない経過と言えます。そのため事故後初期は頸椎捻挫や外傷性頸部症候群などの診断を受けます。 事故直後から強い痛みを訴えている事案も多いですが、事故の数日後から2週間以内の時期に痛みが増強している事案も多いです。そのため早期に通院先を変更している事案が多いです。痛みが強くなった時期にペインクリニックに通院するなどしてブロック注射などの痛み止めの注射を受ける方も少なくないです。但し、最近は注射による二次的な問題(神経を傷つける医療過誤等)を避けるために注射を積極的に行わない医療機関が増えたような感じもします。 事故後に痛みが持続ないし増強した時点でCRPSとの診断をすぐに受けた事案は見当たりません。事故直後に特殊な疾患の診断をする医師がいるはずもないのでこれは当然のことです。普通は頸椎捻挫やむち打ち損傷(外傷性頸部症候群)などのありふれた傷病の診断をします。裁判例では1年以上経してからCRPS(RSD、カウザルギー)の診断を受けた事例が非常に多く、3年以上経過してからCRPSの診断を受けた事例や、訴訟での鑑定で初めてCRPSの診断を受けた事例も散見されます。CRPS(RSD、カウザルギー)は明らかに診断が遅れる傾向があります。
- 上肢の挙上制限 事故後に首から上腕にかけての痛みがあるため上肢を動かすことができない時期が続いていたために、上肢の挙上制限がカルテに全く記載されていない被害者も多く見られます。カルテには何の記載もないか、「痛みで腕を上げられない」などの記載がなされます。可動域検査ができる状態ではないため可動域の数値化はなされないことが通常です。 上肢を動かすと痛みが出るために上肢を動かさない状況が続く中で、自分で動かすことができない自動運動の可動域制限としてカルテに記載されることもあります。裁判例ではこの時期に至ってもCRPSの診断を受けない事案がほとんどです。
- ブロック注射と可動域訓練 上記イの時期には可動域を確保するために、ブロック注射で痛みを遮断している状態で可動域を回復する治療をすることが、医学的には推奨されています。痛みを止めないと上肢が動かせないために痛み止めの注射をした状態で可動域訓練をするほかないとの事情もあります。 裁判例では適時にその治療を受けている方はほとんど目にしません。その治療を行わない、もしくは可動域制限がほぼ固定化した「手遅れの状況」になってからその治療を受けている方が大半を占めます。この時期に至って、大学病院等に通院する患者が多いと言え、そこでCRPSとの診断を受ける患者が多数います。その診断を下した病院への通院でそれまで確認できなかったCRPSに特徴的な症状が多数カルテで確認できるようになります。CRPSを疑って初めてCRPSに関連する症状がカルテに記載されるという構造です。CRPSを疑わなかった医師はその症状をカルテに記載しません。 私の経験でも「この時期には上肢が浮腫で顕著に腫れ上がっていた」と被害者が主張している時期にカルテにその記載がないことの方が多く、発汗・皮膚温・骨萎縮などそのほかの症状は何も記載がないことの方が圧倒的に多かったです。CRPSの診断をした大学病院等に通院した初日に多数の症状が新たに確認できるという事情が多くみられました。 この事情のため加害者側は「半年以内にCRPSを発症したと認められなければ事故との因果関係は切断される」との期限内発症論を主張することが通例と言えます。症状が連続している中で因果関係の切断を認めることは異常なことですがこの理屈に騙された裁判例は非常に多いです。
- 可動域制限の悪化 裁判例ではブロック注射等の治療を受けるも上肢の可動域が悪化し続けて、上肢を自動のみならず他動でもでは動かせない状況に至った方が多いと言えます。但し、症状が悪化するまでの期間には個人差があり、3年以上をかけて悪化する方もいれば4か月ほどで悪化が完了する方もいます。 裁判例では上肢が関節拘縮で全く動かせなくなったこの時期に至ってもCRPS(RSD、カウザルギー)との診断を受けていない事例が散見されます。訴訟の鑑定で最初の診断を受けた事例も散見されます。古い時代ほどその傾向が出ています
- 症状固定後の悪化 裁判例では、上肢が可動域制限の状況で症状固定となって、その後に症状が悪化して上肢全体が廃用となっている方も多く見かけます。労災では1年半までに症状固定とする原則があるため、労災との関係で症状固定が早められたと考えられる事案も少なからずあります。 一方で労災とは無関係に早期の相手損保の治療費打切りで症状固定となり、その後に悪化した事案も多くあります。加害者から債務不存在の訴訟を起こされている間にも症状の悪化が続いている事案もあります。治療により上肢の可動域が残された状況で症状固定となり、加害者への裁判中に悪化した事例もあります。 以上のように、いったん症状の悪化が落ち着いたと判断できても、その後に再度症状の悪化が生じるか否かは結果からみてみないと何とも言えないと言えます。但し、中程度の可動域制限の状況で症状固定となり治療費の支払いが打ち切られると、可動域を維持するための治療もできなくなり、そのために可動域制限が悪化し上肢の拘縮に至ることもあり、1つの典型例であるとも言えます。以上のように上肢の挙上制限が発生した事案では、可動域制限が上肢の拘縮にまで至る事案がかなり多いと言えます。
よくみられる症状経過と悪化否定論
