実務解説 (転載禁止)

RSDの3要件について

1 RSDの3要件とは

 後遺障害認定基準に関しては平成15年に厚生労働省から出された通達(基発0808002号)において「特殊な性状の疼痛」の項目でカウザルギーとRSD(反射性交感神経性ジストロフィー)について言及し、RSDの場合には3つの要件を満たした場合にカウザルギーと同様の基準で後遺障害等級等を認定するとされています。これが「RSDの3要件」です。  カウザルギーはCRPSタイプ2(主要な神経の損傷があるもの)に該当し、RSDはCRPSタイプ1(主要な神経の損傷が確認できないもの)に該当します。  訴訟ではRSDの3要件をCRPS(RSD)の診断基準であるとする主張が加害者側からなされることが定番化していますが、誤りです。RSDの3要件は診断基準ではなく、カウザルギーと同様に扱うための要件であると認定基準自体が定めています。


2 自賠責の実務について

 上記のとおり後遺障害認定基準においてはカウザルギーにはRSDの3要件は必要ではなく、RSDにのみRSDの3要件が必要とされており両者の扱いに違いがあります。RSDの3要件では①関節拘縮、②骨の萎縮、③皮膚の変化(皮膚温の変化、皮膚の萎縮)が健側に比較して明らかに認められることが必要であるとしています。この扱いの違いの趣旨としてRSD(CRPSタイプ1)は主要な神経の損傷が確認できないことから特に別の要件を課したと理解できます。  しかし、実際の自賠責の後遺障害認定手続では臨床でカウザルギーと診断され、後遺障害診断書の傷病名がカウザルギーとされた事案でもRSDの3要件が必要との運用がされています。  この自賠責の実務に対しては、被害者側としては電気生理学検査や神経造影などで神経障害(神経損傷)が確認できたとの証拠を提出して「神経損傷が確認できたことから定義上RSDではなく、カウザルギーであることが確定した。よって、RSDの3要件を適用することはできない。」と後遺障害認定手続で主張する方法が考えられます。ただし、自賠責がこの主張を黙殺してしまうと訴訟で争うほかありません。


3 ほぼ全てのRSD患者がRSDの3要件を満たさない

 ほぼ全てのRSD患者がRSDの3要件を満たさず、その結果、実際の症状とは比較にならないほど低い後遺障害認定となるため基準自体が誤っていることが明らかです。  「2008年日本版CRPS判定指標とその読み方」の項目で紹介した日本版のCRPS判定指標の5項目を上からAないしEとした場合に指標を満たす(陽性となる)のは(AB、AC、AD、AE、BC,BD、BE、CD、CE、DE)の10通りです。検査の感度は82.6%とされています。即ちCRPS患者の82.6%がこの10通りのいずれかに該当します。感度とは対象疾患(この場合CRPS)の患者がその検査で陽性となる割合です。患者の症状がABであってもCDであっても陽性となることからCRPSには必須の症状がないことがこの点からも即座に判明します。  第1の絞り。RSDの3要件は上記の10通りの組み合わせのうち、A(皮膚・爪・毛のうちいずれかに萎縮性変化)とB(関節可動域制限)のみを指定しています。この時点で判定指標に比べて選択肢が10分の1に絞り込まれ、大部分のCRPS患者がこの基準を満たさなくなります。この時点でRSDの3要件が基準として誤っていると容易に断言できます。  第2の絞り。RSDの3要件は項目A(皮膚・爪・毛のうちいずれかに萎縮性変化)に含まれる3要素を皮膚の変化の1つのみに限定し、この点でも条件が3分の1に絞り込まれています。   第3の絞り。RSDの3要件は項目B(関節可動域制限)を最も重度な関節拘縮のみに絞り込んでいます。重症の患者ほど数が少なくなるのでこの絞り込みで要件を満たすCRPS患者がさらに格段に減少します。  第4の絞り。RSDの3要件は骨の萎縮も必要であるとして新たな要件も課します。骨萎縮はCRPS患者での発症頻度が低いためギボンズの基準以外の全ての診断基準・判定指標で判断要素の1つにも挙げられていません。この点でも当てはまるCRPS患者が格段に絞り込まれます。  第5の絞り。RSDの3要件は3つの症状が「明らか」であることも要求しています。CRPSには必須の症状が1つも存在しないため判定指標では確認できる症状は洩らさず把握する必要があり、症状がはっきりしない擬陽性も考慮する必要があります。もちろん症状が明らかであることは要求されません。3つの症状が全て「明らか」(重度)であることを要求すると当てはまるCRPS患者が格段に絞り込まれます。  第6の絞り。CRPSの判定指標では対象となる症状が出現した後に消失していても、いったん出現した以上その症状は「あり」としてカウントされます。日本語版の判定指標がこのことを「病期のいずれかの時期に」と表現しています。これに対してRSDの3要件は後遺障害認定時にその症状が存在することが必要であるとして、この点でも対象の絞り込みをしています。  これらの6回にもわたる念入りな絞り込みの結果、CRPS患者のほぼ全員がRSDの3要件を満たさないことが容易に予想できます。実際にも裁判例では臨床でCRPS(RSD、カウザルギー)と診断されても、自賠責でRSDの3要件を満たしたとされた患者は皆無に近い状況です。CRPSとの診断を受けた被害者は重い後遺障害を残す方が多いところ、RSDの3要件が存在するために被害者はその症状に全く見合わない低い後遺障害認定もしくは非該当の認定を受けることとなっています。これは厚生労働省の重大かつ明らかな失態と言わざるを得ません。すでに20年以上もこの基準が放置されており、更なる被害が拡大しています。これは薬害エイズ問題を上回るほどの失態です。


4 RSDの3要件の中にCRPSに必須の症状は存在しない

 三上容司医師はRSDの3要件について「国際疼痛学会の診断基準(1994年)、本邦の判定指標(2008)のいずれにおいてもこれらの所見は必須ではなく、これらの所見を欠いてもCRPSと診断され得る。」とします(『複合性局所疼痛症候群CRPS』243頁、『複合性局所疼痛症候群(CRPS)をもっと知ろう』101頁)。要するにRSDの3要件のなかにはCRPSに必須の症状は存在しないということです。もとよりCRPSには必須の症状が1つも存在しないことからこれは当然のことです。三上医師は同様の主張を医学雑誌等でも数回述べています(『ペインクリニック』2012年8月号等)。


5 実際の認定手続での絞り


  1. 3要件の認定それ自体を厳しくしている  自賠責の後遺障害認定手続ではRSDの3要件には上記の6回の絞りに加えて更なる絞りが行われる事案もあります。RSDの3要件では①関節拘縮、②骨の萎縮、③皮膚の変化(皮膚温の変化、皮膚の萎縮)が健側に比較して明らかに認められることが必要とされます。裁判例や私の経験では、臨床での医師の見解によれば被害者が3要件の全部ないし一部を満たしていても、後遺障害認定手続では3要件を1つも満たさないとの認定を受けている事案が大半を占めます。  上記①の関節拘縮に関しては、臨床で医師が行った可動域検査の結果をでは関節拘縮が認められていても、自賠責の後遺障害認定手続では「これを証明する画像所見等が存在しない」等の理由で否定することがほぼ全てです(18番の裁判例など)。関節拘縮はレントゲンやMRIなどの画像所見では確認できません。関節拘縮は関節周囲の組織が伸縮性を失って(線維化して)生じるところ、その組織の変化は画像には映らないからです。  正しくは医師が臨床で行った可動域検査の結果をそのまま用いる必要があります。可動域は画像ではなく人できないため、それ以外の計測方法はないからです。私は鑑定人が可動域検査の結果を否定して地裁判決で関節拘縮が否定された事案で、主治医にお願いして全身麻酔下での可動域検査をしてもらい私も手術室に入ってその検査の様子をビデオ撮影したことがあります。このような方法は被害者の身体的侵襲が大きく本来は用いるべきではないでしょう。  上記②の骨萎縮に関しては、臨床で医師が骨萎縮の存在を確認していた事案でも、後遺障害認定手続では「明らかでない」との理由で否定される事案がほとんどであると言えます。裁判官はレントゲンが読めないので裁判となっても裁判官が自賠責の認定の誤りを指摘することはありません。  上記③の皮膚の変化に関しても、臨床で皮膚温の変化を確認していても、左右差が明確ではないとして否定されることが多いと言えます。医学的には1度の差があれば「左右差あり」となり、1度以下の差(たとえば0.7度)でも考慮しますが、5度以上の差を要求するニュアンスで「差がほとんどない」とされると素人は誤解することとなります。  その結果、臨床でCRPS(RSD、カウザルギー)との診断を受けていて、3要件を複数満たしていても、後遺障害認定手続では3要件を1つも満たさないとされている裁判例が大半となっています。

  2. 訴訟を見据えた症状の否定  このように訴訟で加害者側が症状の否定を主張することが多い事案において、それを見越して後遺障害等級が異常に低く見積もられている事案が多いことはCRPSに限ったことではありません。脊髄損傷、高次脳機能障害、視神経損傷、胸郭出口症候群など多くの事案で、後遺障害認定の内容が訴訟での加害者側の主張を先取りして臨床での診察結果を否定していることが裁判例でも確認できます。

  3. 抱き合わせ表現  後遺障害認定手続では診断の適否の検討は行うことができず、行っていません。しかし、後遺障害等級認定の理由の部分では、そのことが分かりにくくなっています。「被害者が本件事故によりCRPSを発症して、その症状として関節拘縮を生じたと認めることはできません。」などと書かれると、RSDの3要件を満たさない結果として診断を否定したようにも見えます。このような抱き合わせ表現による論理の曖昧化は訴訟での加害者側の主張を見据えた騙しの主張の先行使用とも言えます。

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