実務解説 (転載禁止)

具体的な症状の確認について

1 加害者側は被害者の症状を否定する

 CRPSが関係する訴訟に関わらず被害者の症状が争点となる訴訟では加害者側は被害者の主張する症状の存在を否定する主張をすることが通常です。意見書や鑑定書を提出して医師の意見として症状の否定を述べることもほとんど定番化しています。  CRPSが関係する訴訟では加害者側の方法がある程度パターン化しています。以下ではこの点を述べます。CRPSには必須の症状が1つも存在しないので確認できる症状は洩らさずにチェックする必要があります。これが基本的な姿勢です。


2 腫脹(浮腫)


  1. 全ての判定指標・診断基準で重視されています  浮腫は①CRPSがRSDと呼ばれていた時期のLankfordやKozinの診断基準でも判断要素の1つにあげられてきました。その後の②Veldmanの基準、③国際疼痛学会の1994年の基準、④アメリカの1999年の基準(『神経障害性疼痛診療ガイドブック』147頁)、⑤国際疼痛学会の2005年の基準(ブダペスト基準)(『ペインクリニック診断・治療ガイド』107頁)、⑥2008年の日本の判定指標の全てで浮腫はCRPS(RSD、カウザルギー)の判断要素の1つにあげられてきました。このように浮腫が確認できることはCRPSとの診断を肯定する重要な要素となります。上肢CRPSの典型症例は上肢全体がブクブクに腫れ上がった状態であり、医学書ではその画像が典型症例として紹介されていることが多いです。

  2. 加害者側はなんとかして無視・軽視しようとする  加害者側はどれほど顕著な浮腫が生じていても加害者側は医学意見書等でその浮腫を「ごくわずか」、「上肢を動かさない状態で生じる程度」、「上肢の下垂により生じる程度」とし全力で無視・軽視しようとします。もちろん、これらの無理がある表現には説得力はありません。そこで加害者側は「難病であるCRPSにおいては非常に巨大で一見して病的で異常なものだけを『浮腫』として取り上げ、一見して存在が分かる程度にすぎない浮腫はCRPSでは浮腫としては扱わない」と主張して浮腫の認定基準の抜本的変更を主張します。果たしてこのような主張が成り立ちうるのでしょうか。  訴訟事案では被害者の上肢がブクブクと顕著に膨れ上がっていることもしばしばあります。カルテには「浮腫(++)顕著)」などと記載されます。このような事案でも加害者側の医師が「わずかに浮腫がみられる。上肢の下垂により生じる程度である。」と表現すると裁判官がその判断基準を尊重することがあります。その医師が鑑定人ともなると裁判官は妄信することとなります(私の経験です)。

  3. 必須の症状はないのでわずかな症状も見逃せない  もちろんCRPSの場合もその他の疾患の場合も症状の有無に関する臨床の判定基準に変更はありません。そもそも診断する以前の症状の確認段階で「CRPSによる症状」を前提とした特殊な基準を用いるわけがありません。医師が普通の浮腫を確認すれば「浮腫あり」と評価し、カルテに記載します。  1993年のアメリカ大規模調査ではCRPS患者の69%に浮腫が確認されました(『臨床雑誌整形外科』54巻7号746頁)。即ち、浮腫はCRPS患者の全員ではなく一部の患者だけに生じる症状なのでわずかな浮腫も見逃すことなく確認する必要があります。臨床で浮腫が確認できればカルテに「浮腫あり(+)」と記載されます。  従って私のような一般人が目で見てわかる程度の明確な浮腫があれば浮腫(++)(顕著)との評価が正しいです。普通に浮腫があると分かる程度のものであれば浮腫(+)(あり)となり、浮腫が微妙な時には(±)(擬陽性。浮腫があるかどうかはっきりしない)として考慮に入れる必要があります。この擬陽性の概念はわずかな症状も見逃さずに考慮べしとするものであり、「明らかでないので無視して良い」とする訴訟での加害者側の主張とは真逆の発想によるものです。

  4. 脱洗脳の難しさ  従って、ブクブクに膨れ上がった上肢を「わずかな浮腫」とすることは極めて明確な誤りです。この1点のみでその意見書・鑑定書の他の全ての部分も強い疑いの目で見る必要があります。  しかし、鑑定人が上記のように述べると、「そうなのか。CRPSによる浮腫としてはこれでも『わずか』なのか。医学ではこれが標準なんですね。危うく判断を間違えるところであった。」と信じてしまう裁判官もいるのです。あまりにも滑稽ですが現実の訴訟でこの状況となると笑いごとではありません。その感覚の異常さを指摘しても裁判官にその主張を理解してもらうことは非常に困難である場合もあります。医学意見書や鑑定書ではそのような顕著な浮腫でも「わずかに浮腫がある」や「軽度の浮腫が見られる」が常套句となっていてその経験を重ねて感覚が破壊されていることも少なくないようです。被害者側としては冷静に「これは顕著な浮腫ですよ」と繰り返し指摘するほかありません。

3 皮膚温の変化

 皮膚温の変化は日本版の2005年の判定指標には判断要素に加えられていませんが、国際疼痛学会の1994年と2005年の判定指標では判断要素の1つとなっています。なお、労災・自賠責のRSDの3要件でも判断要素の1つとされています。  では皮膚温の左右差は何度の差であれば判定指標を満たすのでしょうか。訴訟では1~2度の差では皮膚温の変化としては不十分である。検査前に冷気にさらしておけば偽装可能である、最低でも5度以上の差が必要であるなどの大胆な主張が加害者側からなされることが予想されます。  この点、「非接触性の温度測定で1℃以上の温度差が見られることが多い。」(『整形・災害外科』45巻13号1325頁)との文献があります。加えて、国際疼痛学会が2005年の判定指標を改定するための案として2007年に公表した内容では「1度以上の左右差」となっています(『臨床雑誌整形外科』63巻8号増刊号880頁)。即ち、皮膚温の左右差は1度以上であれば「認められる」と判断することが国際的な学会で提唱されています。なお、1度以下の左右差の場合も0.7度や0.8度は明確に差が明確に計測できているので考慮すべき左右差となります。


4 アロディニア

 アロディニアとは肌に触れただけ、ぬるいお湯に触れただけという通常では痛みとして感じることがない刺激を痛みとして感じる状態を言います。痛覚過敏の1つです。  アロディニアも国際疼痛学会の1994年と2005年の判定指標や2005年の日本の判定指標でも判断要素の1つとされています。臨床では「触っただけでも痛い」との記載があれば容易にアロディニアの存在を肯定できます。  しかし、加害者側が「医師がアロディニアとの用語を明示して症状を書かなければアロディニアとは認められない。」などと主張し、鑑定書で「カルテでよく見かける痛みの表現の1つに過ぎずアロディニアではない。」とされると、裁判官はこれに騙されやすくなります。この誤りに対してはアロディニアの定義に合う症状であるかどうかをカルテの記載から読み込むべしと主張するほかありません。


5 骨萎縮


  1. 骨萎縮は診断で重視されていない症状です  もとよりCRPSには必須の症状は1つもないことは世界中の医師が認めるごく基本的・初歩的な常識ですので、CRPSの診断に骨萎縮は必須ではありません。骨萎縮は国際疼痛学会の1994年や2005年の判定指標でも、アメリカの判定指標でも、日本の判定指標でも判断要素の1つに加えられていません。それはCRPS患者における発生頻度が低い(アメリカの大規模調査ではCRPS患者の36%)ため判断要素として機能しないからです。

  2. RSDの3要件の異常さ  しかし、日本の労災・自賠責のRSDの3要件では骨萎縮が必須とされています。自賠責の認定基準である「明らかな骨萎縮」が確認できるCRPS患者は36%のうちのごく一部であると予想できます(症状が重いほど割合が減少することが通常なので)。従って、「明らかな骨萎縮」が確認できるのはCRPS患者全体のごく一部であると合理的に予想できます。従って、RSDの3要件が「明らかな骨萎縮」を必須としていることは重大かつ明白な誤りというほかありません。労災・自賠責では「明らかな骨萎縮」がなければ12級以上の後遺障害等級にはならず、14級ないし非該当とされるのは極めて不合理です。これは厚生労働省が関与した事件としては薬剤エイズ事件を上回る事件というほかありません。  訴訟ではRSDの3要件を診断基準であるとするウソ医学は加害者側の定番となっています。また、「被害者が主張するように長期にわたって上肢が動かせないのであれば骨萎縮が発生していてしかるべきである。」とのウソ医学によっても骨萎縮必須論は主張されます。CRPSが関係する訴訟のウソ医学の中心はまさに骨萎縮必須論です。

  3. 裁判官は画像が読めないので騙し放題となる  裁判例では臨床で(複数回)確認された骨萎縮を加害者側の意見書や鑑定書で否定するとの対応が定番です。なにしろ裁判官はレントゲンの読み取りができないので、被害者の担当医に骨萎縮が明確に読み取れても加害者側の意見書名義人の医師が「明らかには確認できない」と述べるとそれだけで同じ画像を巡って水掛け論が生じます。その結果、否定する論者がいることのみで「明らかな骨萎縮が存在する」とは言えないとの結論に向かいます。  これに対しては骨萎縮を確認した医師に対して「どの部分に骨萎縮が確認できますか」と問い合わせる方法があります。具体的部位を明確にしてそこに骨萎縮があると主張することで主張に厚みが出て反論は出にくくなります。これに対して、骨萎縮を否定する意見書等の執筆担当者は「本当にレントゲンが読めるのかなあ」と思う点もあります。骨の部位などの解剖学的な具体的名称が意見書の中に出てこないからです。そのため、「本当に医師が書いてるのかなあ。レントゲンが読めない素人が書いているようにも見えるなあ。」との感想も持ってしまいます。  そこで「加害者側医学意見書への対応方法」で述べた方法で対応することも効果的です。要するに、「その意見書はご自分が単独で書かれたのですか。補助者はいないですよね。では一筆書いてください。」と要請すると誰1人としてこれに応じないのです。その場合には書面による証人尋問の方法で鑑定人に対して同じ質問する方法もあります。

6 関節可動域制限、関節拘縮


  1. 可動域検査の数値を判決で採用すべき  関節の可動性やその範囲を測定するための検査方法が関節可動域検査であり、関節の可動性は可動域検査以外の方法では測定できません。従って、関節可動域の数値は可動域検査の結果に従うことが求められます。可動域検査では専門家である医師が検査時の関節の重さの変化(終末感)を感知して測定した数値を記載します(『関節可動域・筋長検査法』21頁)。終末感は最終域感とも呼ばれます(『関節可動域測定法』9頁)。上肢については被害者が終末感ないし最終域感の重さを偽装して医師を騙すことは不可能と言えます。可動域を何回も測定しているとなると偽装で騙し続けることはなおさら不可能です。  しかし、加害者側は被験者が突っ張って抵抗すればごまかせるので検査の価値はないとの前提でそれを否定し、「ごまかせる余地がわずかでもあれば証拠としての価値はない」として可動域検査の検査結果を無視する裁判官も少なくないのが実情です。その考えでは可動域制限は加害者が争うと原理的に認定できなくなります。その前提には医師の技量を見下した考えもありこの点でも問題があります。関節可動域の偽装を疑うことはあたかも、「医者は5分触ってもぬいぐるみと本物の猫の区別ができない。」とするようなものです。患者が医師を騙すことが不可能であるため、判決で可動域検査の数値を採用しないことは医師が被害者と結託して虚偽の数値を記載したと認定したこととなります。

  2. 可動域制限と関節拘縮は重症度が全く異なります  アメリカの大規模調査では関節可動域制限(四肢運動制限)はCRPS患者の88%に確認されています。日本人患者の調査でも多数の人に症状が出現していたため、関節可動域制限は国際疼痛学会の1994年と2005年の判定指標でも日本の2008年の判定指標でも判断要素の1つとされています。もちろん、軽度の症状は重度の症状に比べて圧倒的に数が多いことが予想できます。従って、可動域に何らかの制限がある可動域制限よりも関節が全く動かない関節拘縮は格段に重度の症状であり、患者数も前者より格段に少ないと予想できます

  3. RSDの3要件の不合理性  労災・自賠責のRSDの3要件では関節可動域制限が重症化した関節拘縮が必須とします。CRPS患者には関節可動域制限を生じない人もいることや、関節可動域制限を生じる人も大多数が関節拘縮まで重症化していないと予想できることからは、RSDの3要件が関節拘縮を必須としていることは重大かつ明白な誤りというほかありません。労災・自賠責では関節拘縮がなければ12級以上の後遺障害等級にはならず、14級ないし非該当とされるのは極めて不合理です。厚生労働省が関与した事件としては薬剤エイズ事件を上回る事件というほかありません。

  4. 訴訟での加害者側の争い方  訴訟では被害者側は後遺障害診断書に記載された関節可動域検査の数値を主張します。関節可動域の数値は関節可動域検査により測定され、それ以外の方法では測定できません。  これに対して、「加害者側は骨萎縮がないので関節可動域制限は存在しない。」との主張をします。一見すると何を言っているのか理解できません。骨萎縮と関節可動域制限は別の概念です。それぞれの計測方法も全く異なります。レントゲンで骨萎縮が確認できなかったことがどうして関節可動域制限を否定する理由になるのか意味不明です。  そこで登場するのが「被害者の主張するように長期にわたって可動域が制限されたとするならば、骨萎縮が必ず生じるはずだ」との主張(骨萎縮必須論)です。この主張は一見して暴論ですが医学意見書や鑑定書に記載されると信じてしまう裁判官が出現します。  この主張とセットでなされるのが、①被害者の主張する症状は「CRPSによる症状」である、②CRPSによる症状はCRPSを発症したことにより生じる症状である、③そこで検討したところ被害者には骨萎縮や皮膚温の変化等が確認できないので被害者はCRPSを発症したとは言えない、④よって、被害者の主張する症状は「CRPSによる症状」ではないので、その症状の存否や程度を確認するまでもなく被害者の主張は否定できる。との主張(発症理論)です。  短くまとめるとでたらめの度合いが強い主張ですが、非常に多くの裁判官がこの主張に騙されていることが確認できます。実際にも騙された裁判例においては現実の被害者の症状の有無や程度を検討することなく、「CRPSによる症状ではない。以上。」で終了しています。要するに「何が生じたのかわからないけど被害者の主張が認められないことだけは決められる。」との理屈です。無茶苦茶な理屈だなあとは思います。「心証が高度に空白化した状態で意味不明のマニュアルに従った結論だけ出しました。」というのが裁判たりうるのか疑問ですが、これが裁判例で多数を占めています。  この理屈に対しては基本に立ち返って、①診断が正しくないので診断の基礎となった症状は存在しないとの理屈は誤りである、②そもそもCRPSには必須の症状は1つもない、③骨萎縮必須論は誤りであるなどの主張を丁寧にするほかありません。

7 握力


  1. 検査ごとに数値の変動が大きいことが通常です  上肢のCRPSでは上肢の脱力や握力の低下が生じます。裁判例や私の経験からは握力が低下する中で行われた検査での数値は、検査ごとの変動が大きいことが通常です。もともと40kg以上あった握力が15kgに低下し、その後5kgになり、さらに0kgになり、また20kgになるなどの変動が多くの事案で見られます。そのような一進一退を経て最終的には握力が0kgで固定するとの経過は、関節拘縮では普通の経過とも言えます。

  2. 加害者側は検査数値のブレを指摘することが定番です  これに対して加害者側は数値が検査ごとに大きく変動していることを指摘して、被害者が力を加減して検査を受けていると主張することが定番となっています。実際は力を加減しないから変動が大きいのですが、この主張に騙されて判決でも引用している裁判例が散見されます。

8 画像での証明を求める考え

 加害者側は被害者の主張する上記の各症状について、画像での証明が必須であると主張することは非常に多いと言えます。これは証明手段の限定であり、証拠方法は限定しないとする民事訴訟法の基本原則(247条自由心証主義)に反します。従って、その主張自体が無視すべきものと言えます。  しかし、①12級以上には他覚的所見が必要である、②他覚的所見とは画像所見のことである、との2点の騙しの両方に騙された状態で、さらに自由心証主義違反にも気づかずに、証拠方法の限定を認めている裁判例が非常に多いと言えます。


9 症状の認定に機序の解明を求める考え

 後遺障害についてはその発生の機序を解明しなければ、その実在を認めないとする考えを加害者側は主張することがあり、これに騙された裁判例も多いです。しかし、事故によりほぼ即死した事案で死因が不明であれば死亡したとは認めないとして、事故による出血多量、多臓器不全、ショック症状等のいずれかが死因であると確定しなければ因果関係を認めないとすることもおかしなことです。機序の解明がなければ現に存在する症状を認めないとすることはそれ自体が途方もない暴論と言わざるを得ません。  しかし、「関節可動域の制限が医学的に合理的な説明によって裏付けられているとは言えず、その発生の機序が原告の主張立証によって明らかにされているとは言えない。」との理由で関節可動域制限を認めなかった裁判例もあります(判例解説40の事案・橈骨遠位端骨折後のRSD)。


10 意図的に裁判官を騙し支払うべき賠償金の支払いを免れることは犯罪です。

 損害賠償金の支払いを免れるため虚偽の事実等を主張して裁判官を錯誤に陥れて判決を取得することは詐欺となります。従って、ウソ医学等の騙しの理屈を意図的に主張して損害賠償義務の全部ないし一部を免れることは犯罪となります。内容虚偽の借用書で裁判官を騙して判決を取るのと同じ、訴訟の中で行われる詐欺であり犯罪となります。CRPSの患者には重い後遺障害を主張している方が多いところ、意図的にその後遺障害が低いものまたは後遺障害が存在しないとの誤解を生じさせるために虚偽の医学的知見を用いるなどして裁判官を騙して判決を取得することは犯罪となります。なお、これはあくまでも一般論です。


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